「アラブの春」関連の御本を色々めくっためも(1)


中東民衆革命の真実 ──エジプト現地レポート (集英社新書)
ちょうど1年前くらいに出された御本。今のところ、田原さんのお見立てで外れたとこは無いように思う。占いではないのだからあたりもはずれも無いんだけど。この本は1/2以上がエジプトのルポ的描写なのですが、「世代間の断絶」「宗教勢力は脅威ではない」「アラブ政治のアメリカ離れ」あたりのキーワードはどこを見ても共通してるように思いました。「同胞団のムルシーが大統領になってるじゃないか、あれは脅威ではないのか」とおっしゃるひともいるかも知れませんが、アルジャジーラなどを通じて観察する限り、老若男女がふつうに「ムルシーのばか」「もっかい選挙やれ」的なことを堂々と顔出しして述べている超ヘルシーな光景が繰り広げられており、今のところはまずまず良い感じではないか、と思うわけです。

田原さんは「労働系勢力」が盛り上がるんじゃないかと言ってる。「いまさら左翼運動もないだろう」とか言ってはいけない。分厚い若年層の多くが失業者なわけだから、嫌も応も無しに/よくもわるくも、どうしたって部分的にはそういう感じになるのではないか。


革命と独裁のアラブ
アラブの春っぽいのなら何でもめくろうと思ってめくったんですけど。 何でもめくるもんじゃないですね。


アラブの春は終わらない
わたしは特に「アラブ好き」というのではないし、「アラブ嫌い」というのでもありません。アラブに限らず、どこのお国や地域に対しても、アパートの隣人に対するのと同じような感じにしてられたらいいのになあと思っており、そして(心身ともに)そのようにふるまえるよう、意識して訓練づけるようにしています。あなたの部屋の壁の色は何色ですか、カーペットは何色ですか、どこにお勤めですか、昨夜は何を食べましたか、誰と過ごしましたか……といったことを、根掘り葉掘り聞かない。でも問わずとも教えてくれたなら、そしてそれが面白かったなら、「うんうん、それで?」って続きを尋ねると思います。これはそういう御本でした。

タハール・ベン=ジェルーン氏の小説は何冊か読んでいます。モロッコ出身で、今はフランス在住ですけどモロッコもやっぱりアラブの春以降ややあって、改憲とかしてたりしてるんですね。ファーティマ・メルニッシが(あ、彼女もモロッコの人だ)「変化に必要なのは軍人でも政治家でもなくて詩人」って言ってたけれど、それで合ってる気がずっとしている。

氏の『出てゆく』という小説があって、読み終わったとき、ああこれは最終章が書きたくて書いたんだなあっていう感じを受けるのですが、その最終章について氏は、「出ていった者(移民の皆さん)には帰る権利があるのだ、と言いたかった」というような事を、先ごろどこかのインタビューで仰っていました。


アラブ革命の衝撃 世界でいま何が起きているのか
タイトルはこうでも内容はアラブ革命についてではなく、アラブ革命に至る歴史的・地理的・文化的&宗教的背景の解説的な御本でした。でもなんか少しづつずれてるっていうかずらされてるっていうか。元米軍人で物書きのラルフ・ピーターズというひとが書いた「ぼくの考えた新しい中東地図」っていうのがあるんですが、前述の佐々木氏の御本のしょっぱなで出て来たそれがこの御本のしょっぱなでも取り上げられていて何かもうどうしたら良いのか分からなくなった。

いや、「アラブの春」に「西洋」なり「西洋列強」なり「欧米」なり「アメリカ」なりが関わってないとは思わないし、どう関わっているのかっていうのはちゃんと検証した方が良いよね、っていうことなら同意するけど、でもそれはラルフ・ピーターズ連れてきてやることじゃないだろう。

あとがきで氏はご自身の「アプローチ」を「板垣雄三・東京大学名誉教授のそれ」と言い、「板垣氏が築き上げてきた中東学の方法を批判的に継承しなければならない」と言い、それが「あとからくる世代に属する者の責務」と言ってるのでああそうですかお呼びじゃないですね部外者がたいへん失礼しました、って思いました。

氏の『大川周明 イスラームと天皇のはざまで』は嫌いじゃない。漂うやむにやまれぬ感が何ともいえずわるくなかったですよ。批判的に継承するなら、そっち方面でがんばってほしいと思いました。

別のところに書いたのを、こちらに保存しました。