NYT紙(ウェブ記事)の日曜レビュー“What a Million Syllabuses Can Teach Us”に、「ザ・オープン・シラバス・プロジェクト」というのが紹介されていました。約2年の歳月をかけて、公開されている大学のシラバス情報を100万+集めたオープン・シラバスのデータベースだそうです。
で、それを元に構築されたシラバス検索エンジンのベータ版がウェブ上から閲覧できるようになっています:
現時点でのSyllabus Explorer(シラバス検索エンジン)の主な用途は、該当するテキストが過去10年間にどれくらいの頻度でアサインされているかの集計である。閲覧する者誰もが何かしらの意味を見出せるだろう。上位100冊を支配するのはトラディショナルな西洋古典群だ。2位はプラトン『国家』、3位は『共産党宣言』、5位は『フランケンシュタイン』。アリストテレス『倫理学』、ホッブズ『リヴァイアサン』、マキャベリ『君主論』、『オイディプス』そして『ハムレット』がそれに続く。
「何で『共産党宣言』なんかが上位にランクインしてるの?」と不思議に思ったそこのあなた。ご説明しましょう。『国家』同様にこのテキストは、歴史学・社会学・政治科学、といった具合に分野をまたいで頻繁に言及されているからなんですよ。
これ(シラバス検索エンジン)、大学ごととか国別(アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリアつまり英語圏)とか、フィールドとかでフィルタをかけたりして検索するのも楽しいです。とりあえず、オールジャンルの上位20冊50冊の邦訳を探してみました。以下にずらずらとリンクしてみます。
(1)『英語文章ルールブック』 ウィリアム・ストランク この御本の言いつけ通りに書けば文章はとってもハンサムになります。最初の版は1920年らしいですが、御本そのものはそれ以前から存在しており(著者のストランク先生がお手作りして受講学生たちに教科書として指定・配布していたそうです)、当時のキャンパス内でそれは “The Little Book”と、「ちっさな」の部分にアクセントをおいて呼びならわされていたのだそうな。
邦訳はすごい値段がつけられている。マーケットプレイスはこわいところ。何らかの必要があって英文メールを書かなきゃいけないとか、そういう生活を送っているむきには原書の方をおすすめ。何のことはない、本文85ページほどのほんとうに「ちっさな」本です。それでいて例文とか、おかしやすい語の選び間違いとかその場合の正しい使用法だとかをシンプルていねいに教えてくれます。
(2)『国家』 プラトン そういや石膏デッサンでプラトンとかソクラテスとか、ないなあ。あったらおもしろそうなのに。
(3)『共産党宣言』 カール・マルクス 「興味ないしー」とか毒づきつついろいろ探してたら、なんか解説もいっぱいついてて親切そうなの見つけました。本文だけなら青空文庫に堺利彦・幸徳秋水『共産黨宣言』あり〼た
(5) 『フランケンシュタイン』 メアリー・シェリー 生物学の次点にこれ。
(6)『倫理学』 アリストテレス 『倫理学』ってニコマコスさんのかと思ったらなんか他にもいろいろあるんですね。
(7) 『リヴァイアサン』 ホッブズ 自分がかろうじてめくったことがあるのは中公クラシックスのやつなんですが、岩波のをひっぱってきました。表紙&レビューにみなぎる「万人の万人に対する闘争」感。
(11) 『オデュッセイアー』 ホメーロス 「画像はありません」画像を作ってほしい>アマゾン。
(12) 『オリエンタリズム』 E. サイード このSyllabus Explorer上位テキスト一覧、誰に見せたいってサイード先生に見せたいですよ。
(16) 『カンタベリ物語』 チョーサー 著者名に山脇順三郎って書きそうになりました。
(17) 『アンティゴネー』 ソフォクレス それを言ったらギリシャものの著者はもうぜんぶ呉茂一。
(18) “Letter From the Birmingham Jail” マーティン・ルーサー・キング・ジュニア 初出は「アトランティック」紙、”Negro is Your Brother”と題されたキング牧師から南部の白人宗教指導者8名にあてられた公開書状で、公民権運動における古典的文書のひとつに数えられている由緒正しいテキストなのですが、日本語訳は見つけられませんでした。わたしの探し方がわるいだけでどこかにあるのかも知れないけど、ないのだとしたらちょっと……かなしい。<追記>わたしの探し方がわるいだけでした。ありました。
黒人はなぜ待てないか これの第五章がそれでした。
(19) 『自由論』 J.S.ミル 著者名に山岡洋一って書きそうになりました。
(20) 『科学革命の構造』 トーマス・クーン 著者名に中山茂って書きそうになりました。
(21) 『失楽園』 ミルトン 血沸き肉躍る冒険活劇譚の傑作なんですよこれ。
(22) 『功利主義論』 ミル 「世界の名著」シリーズ大好き。
(24) 『崩れゆく絆』 チヌア・アチェベ 新訳もありました。
(25) 『ソクラテスの弁明』 プラトン だんだん、「こうやって大昔からうだうだだべってばっかりいたのか地中海の連中は」っていうきぶんになってきた。
(26) 『権力論』 フーコー すみません、“Power”とだけ言われてもどれのことなんだかよくわかりません。だいたい権力のはなししてない時がない感じなので、いっそ全部読んどけばいいんじゃないでしょうか。え。いえ。いいです。わたしはいいです。
(27) 『種の起原』 ダーウィン そして図版入りで親切な簡略版。
(28) 『告白』 アウグスティヌス 「ワルだったおれが更正する話」がうけるのって何なの。
20冊まででやめておこうと思ったのに、なんかいろいろな意味で楽しくなってしまって30冊並べてしまいました。
しかしこれ、こうしてながめてみると圧倒的にメラニン色素が足りてなくないか。オスカーかよ。アカデミーだけに(注:わたしの中のサイード先生が言わせていることです。いえ、キング牧師ではないです)。
あるいはここで唐突に「西洋古典とか言ってるけどギリシャ人は西洋人なのかよ」問題を提起してみるという手もあるかもしれないが、それもそれであれなので、がんばってこのまま上位200冊くらいまでこのリストに足してってみようかと思います。
で、以下、ひとまず50冊まで足しました。
(32)『アメリカにおけるデモクラシーについて』 トクヴィル
(35)『A Pocket Style Manual』 ダイアナ・ハッカー
(42)『詩学』 アリストテレス (29)『政治学』も入っててお得。
(44)『資本論』 マルクス 「全9冊」ぅ?!
(46)『Methods in Behavioural Research』 ポール・コズビー 過去15年、もっとも読まれている心理学・行動科学分野のリサーチ入門書。だそうです。
(47)『ハックルベリー・フィン』 トウェイン 花子さんは『赤毛のアン』だけじゃないんですね。
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