“Mizan al-haqq”

キャーティプ・チェレビーという人の『真理の天秤』というのがarchive.orgにあがっていたのを読んでみたら、これが思いがけず相当おもしろかった。ので、いきおいで日本語にして公開しました→『真理の天秤』。これで全体のだいたい1/3くらい。

キャーティプ・チェレビーという人については、ほとんど良く知りませんでした(「でした」というか、今もほとんど良く知らない)。以前に某所でパンフレットか何かの翻訳を頼まれて、そこに「偉大な地理学者キャーティプ・チェレビー」、みたいな感じの紹介文があったようななかったような……くらいですかね。地理の他にも、いろいろやってる人なんですね。

キャーティプ・チェレビー [Katib Celebi] 1609-57
17世紀オスマン朝最高の百科全書的知識人、著述家。本名ムスタファ・イブン・アブドゥッラー。ハッジ・ハリーファという呼び名でも知られる。父はおそらく改宗者。イスタンブルに生れ、青年時代は軍隊の主計官として遠征にも参加したが、20代の終りに縁者の遺産を得てからは学問に専心した。現存しないものも含めると著作の総数は23点。その内容は天文学からクルアーン解釈学、イスラーム法学、歴史、地理、同時代の政治・社会に関する評論にまで及ぶ。ラテン語を解し、メルカトルの『アトラス・ミノール』など数種の文献をトルコ語に翻訳し、オスマン朝における科学思想の西洋化の先駆者とされる。主著には1万4500種の文献を網羅した文献解題提要『書籍と諸学の名称に関する諸見解の開示』、1591-1655年の年代記『要綱』、日本からアナトリアの東境に及ぶ地理書『世界鏡』などがある。
(『岩波イスラーム辞典』)

その23点の著作のうち『真理の天秤』は、英訳者のG.L.ルイスの解説によると著者の最後の作品だそうです。

評論?というかエッセイ?全部で21編+「おわりに」的な1編のどれもとてもおもしろい。「火中の栗を拾う」というか、まあ序言にもあるようにこれは議論のお作法ハンドブック、という目的もあって書かれているのでこういうふうになるという面もあるかと思いますが、それにしたって火中の栗しか拾わないのがポリシー、みたいなとこあります。それだけでは足りずに自分でも火中の栗を生成→他人に拾わせようとしたりとかしてます。「著者による序言」に出てくるんですけど、

数学の勉強にいそしんでいた頃、私の心に三つの質問が浮かんだ。これは法に関わる問題であると考えた私は、当時のシェイヒュル=イスラムであるバハーイー・エフェンディにフェトワを求めた。回答はなかった(略)質問は以下の通りである。

(1)西に太陽が昇ることと、天文学の規則との間に一致の見込みはあるか。
(2)六ヶ月の昼と六ヶ月の夜がある土地では、人はいかにして日に五回の礼拝と断食を行なえるか。
(3)四方向のいずれもがキブラである場所が、メッカの他に存在するか。

別にインターネットが発達してイスラムQ&Aみたいなサイトがぽこぽこできたものだから「南極で断食ってどうすればいいんですか」とか「宇宙飛行士はどうやって礼拝の方角を決めればいいんですか」とかやってる人が登場した、ってわけでもなくてやっぱり昔からいたんですねこういう人。

……誰もが自分のやり方を好む。他のどれよりも、自分たちのやり方の方を好むのである。しかしそうは言っても、中には知的な者もいる。これらの相違の隠れた目的について彼らは沈思黙考し、やがてそこに多くの利点が潜んでいたことを見いだす。そうなれば彼らは、他の誰かの信条や方法に干渉したり、攻撃したりすることもなくなる。自分の宗教に照らして、それが間違っているように思えるなら、自分がそれに手を染めなければ良い。彼らは黙って心の中で否認し、それで満足するだろう。それ以外の人々はたわ言をまき散らす馬鹿どもである。彼らは相違の隠れた目的を理解せず、すべての人間がひとつの信条と行動規範を共有するべきだという不合理な概念にしがみついている。宗教の問題についてのいわれなき論戦は禁じられているにも関わらず、干渉と攻撃の罠に落ちた者たちは、ものごとを荒立てずにはいられない。もちろん、何ごともなかったようにはならない。彼らは自分で自分の首を絞めているだけである。

さて、人間にとり必要不可欠である文明と社会の目的それ自体が、目の見える者に対して知識を得ること、様々な人間どうしの相違への理解を深めること、またあらゆる地域の国家や状態を知ることを要求している。都市の人々のあらゆる階層における習慣と流儀を知ったならばその後は、地上における居住可能な地域とその住民たちについて、また彼らの状態について概略を知る努力をするべきである。そののちに、文明の隠れた目的が徐々に明らかになるだろう。ある種の議論や論争に明け暮れる者たちが、蜘蛛の巣に捕えられた蠅と同じくらい弱く無力であることが、次第に知れるようになるだろう。

随時、他の章も追加したいです。それとすごうくどうでもいいのですが、何かそれっぽい画像を、と探していたらこんなのがあった。教科書(ですよねこれ)に出てくる昔のなんか偉いっぽい人にこういうらくがきをするのって、世界共通なんだなって思いました。

「マルコムXの手紙」

半世紀と1年前の今日はマルコムXが天に召された日でしたので、彼の「巡礼の手紙」を読んでみました。

The Most Remarkable Revelatory Letter Ever Written By Malcolm X

 


1964年4月26日 サウジアラビア、メッカにて

たった今、聖なる町メッカへの巡礼(ハッジ)を終えたところだ。ここは地上で最も神聖な町、非ムスリムには目にすることさえも完全に禁じられている。巡礼は全ムスリムの人生における最も重要なイベントだ。現在、アラビア半島の外からは226,000人を越えるムスリムがここに来ている。最多はトルコからで、約50000人が600台以上のバスを連ねており、これは「トルコは脱イスラム化している」という西洋人のプロパガンダを覆すものだ。

アメリカから実際にメッカ巡礼を果たした者は、知る限り他にはたったの2名である。そして両名共に西インド諸島出身のイスラム教改宗者だ。イライジャ・ムハンマド氏と彼の二人の息子、それに何人かの彼の信者がメッカを訪れたのは巡礼月以外のことであり、それは「オムラ」と呼ばれる小巡礼である。その「オムラ」でさえ、ムスリム世界においては恩恵とみなされている。これまでにメッカを訪れたことのあるアメリカ人は両手に数えられるかも疑わしく、アメリカ生まれのニグロとして初めてハッジを実行したのはこの私であるらしいことを確信している。自慢するために言っているのではない。ただこれがいかに素晴らしい成果であり祝福であるかを指摘し、またこの出来事それ自体がきみを知的に正しい立場へ導く光となり、またきみ自身の知性によってこの出来事が正しく位置づけられるようにと思ってのことだ。

最も神聖な町への巡礼は私にとり何ものにもかえ難い経験となった。数え切れないほどの祝福を私は受け取ったが、それは私が抱いていた最も無謀な夢想をもゆうに超えていた。

ジェッダに到着してほどなく、私はムハメット・ファイサル王子と面会した。皇太子によれば、理想とされるべき彼の父ファイサル皇太子が、私をアラビア半島の支配者の賓客として遇するよう裁定したとのこと。それ以降の出来事を説明しようと思えば書籍にして5、6冊を要するが、*****閣下のはからいにより私はジェッダ、メッカ、ミナ、いずれの場所においても*****ホテルに宿泊していた、それも私が自由に使用できる専用の車両に運転手、宗教的な案内役、それに複数の従者付きである。

これほどまでの栄誉に浴したことはかつてなかったし、またこれほどまでの栄誉と尊敬に浴することで私はより謙虚に、(このような処遇に)ふさわしからぬ者のように感じている。こんな恩恵がアメリカのニグロに与えられるなど、誰が信じるだろうか!!!(しかし)ムスリム世界においてはイスラムを受け入れ、白人または黒人であることをやめるとき、イスラムはすべての人間を人間として認めるのである。何故ならここアラビア半島においては神はひとつであると信じられており、それゆえ人間はひとつであるとも信じられており、あらゆる兄弟姉妹が人類というひとつの家族であると信じられているのだ。

私はここアラビア半島で目にしたのと同様の誠実なもてなしや、真の兄弟愛が実践されているのを目撃したことはかつて一度もなかった。その結果、この巡礼において私が目にしたもの、経験したことの数々が私に対し、多くの思考パターンを「再考」させ、今まで私が下してきた結論のいくつかを捨て去るよう強く促している。この「リアリティの適正化」を経ることは、私にとりさほど難しいものではなかった。何を信じるにせよ私の信念は堅固であるが、しかしそれとは別に、私はいつでも開かれた心を保つよう努めてきたし、真実へと向かう終わりなき知的探求においては、誰とでも手に手を取り合う柔軟性が絶対的に不可欠である。

ここには地球上のあらゆるところからやって来た、あらゆる肌の色のムスリムがいる。メッカ(ジェッダ、ミナ、ムスタリフ)に滞在し、ハッジの儀式について学んでいる間にも私は同じ皿から食べた。同じグラスから飲み、そして同じベッドやラグの上で寝た –– 王や支配者、あるいはその他の統治者と共に –– ******* ムスリム同胞たちと一緒に。彼らは白よりも白い肌、青よりも青い目、そして金よりも金色の髪をしていた。私は彼らの青い目を見たが、彼らが私を同じ(兄弟)と見なしているのが分かった。ひとつの神(アッラー)への彼らの信仰は、実際に彼らの意識から「白人」を取り除き、そのため彼らの、他の肌の色の人々に対する態度やふるまいにも自ずと変化がもたらされるのである。ワンネスへの信仰が、彼らをアメリカ白人とは大いに異なる人々としており、そのため彼らと付き合うのに彼らの肌の色を意識することはまったくなかった。ひとつの神に誠実であること、全ての人々を平等に受け入れることにより彼らもまた、その他の非白人とのイスラム教の兄弟愛の関係において平等に受け入れられているのである。

もしもアメリカ白人たちがイスラム教を受け入れられるものならば、もしも彼らが神(アッラー)の唯一性を受け入れられるものならば、その時こそ彼らもまた人類のワンネスに受け入れられ、常に他人を、彼らが言うところの「肌の色の違い」によって測ることからも自由になれるだろう。そして今も不治の癌のようにアメリカを蝕んでいるレイシズムについて、思考力を持つすべてのアメリカ人は、人種問題をすでに解決しているイスラム教に対してより考慮を払うべきだ。

アメリカのニグロたちが抱く「人種的憎悪」を非難することはできない。何故なら彼らのそれは単なる反応か、あるいは自衛本能によるものだからだ。アメリカ白人による(アメリカのニグロに対してなされる)意識的な人種差別の実践に対し、無意識の知性が抵抗するよう命じているのだ。しかし人種差別にかかるアメリカの狂気じみた強迫観念はこの国を自滅的な道へ引きずり込んでおり、底無しの地獄へ向かう絶壁のすぐ近くまで来ている。白人のうちカレッジ生や大学生といった若い世代が、彼ら自身の若さと囚われることのない知性を通じて「壁に書かれた文字」を目にし、イスラム教に精神的な救済を求め、旧世代にもそうするよう迫るだろうと私は信じる。

人種差別がもたらす回避不可能な大惨事 –– ヒットラーのナチス・ドイツが最も良い証明である –– を食い止めるための、これが白いアメリカに唯一残された道である。

こうしてメッカを訪れ、私自身の個人的・精神的な道において私の宗教(イスラム教)の深奥をより理解できるところまで歩みを進めたところでもう数日、われわれのアフリカの父祖の地へ旅を続けようと思う。アッラーが望むなら5月20日、ニューヨークに戻るまでの間にスーダン、ケニヤ、タンガニーカ、ザンジバル、ナイジェリア、ガーナ、アルジェリアを訪れるつもりだ。

この手紙はきみが好きなように使ってくれて構わない、

エル=ハッジ・マーリク・エル=シャッバーズ
(マルコムX)

 


※「壁に書かれた文字」 ダニエル書の5章を指しているものかと思われます。
※タンガニーカ 現在のタンザニアあたり。

「改宗者ならよーく知ってる、33のあれとかこれとか」

yusuf islam aka cat stevens
いいこともあれば、わるいこともあれば、気まず過ぎることもある。
彼らはそれを「旅」と呼ぶ ––

 

 

1. 「convert(改宗者)です」と自己紹介すると、ボーン・ムスリムがやって来て「convertじゃなくてrevert(復帰者)と言え」と訂正を入れてくる。

fb comment「改宗者なんだけど、家族が未だに喜んでくれてるの。わたしコーランに出てくるジーザス(pbuh)について勉強して、それからそれから」 「改宗じゃなくって復帰と言うべき。インシャアッラーいつかあなたの家族もイスラムに帰ってきますようにインシャアッラー」

what?「はい?」

 

 

2. 初対面なのに、改宗話を聞かせろと言う人たちがいる。

dont know u「あなたの名前も知らないんですが」

 

 

3. 一度も会ったことないのに、改宗後の家族の反応を知りたがる人たちがいる。

dont know me

 

 

4. なんで敢えてやたらとヘンな場所で礼拝したがるの……

dont judge me見せびらかしたくて改宗したんじゃないのよ。

 

 

5. 改宗の理由をエスニシティやら見た目やら家族背景やらからあれこれ妄想してこじつけたがる。

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6. 赤の他人に「いつ結婚するの」と言われる。

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7. 誰かがウドゥしてるのを初めて実際に目にしたとき。

wudu first sight

 

 

8. こんがらがるマズハブの違い。

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9. どこの集まりに顔を出しても自分がおかしいんじゃないかって気がしてくる。

umaおれはUMAか。

 

 

10. なんかグループみたいの作ってかたまってる人たちにわれわれのシャイフに従えとかわれわれの解釈に従えとか言われる。

yeah RIGHT.

 

 

11. 同じ法学派じゃないと知った途端、こっちが侮辱したみたいに受け取る人たちの反応。

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12. 「ムスリムになってみてどうお?」って、それを聞いてどうしたいのか。

szTpgZg-compressorちょう最高、ほんと幸せ、うんうん、いい感じ、うんうん、気にしてくれてありがと –– で?!

 

 

13. 「ちゃんとしたイスラムを教えてあげるよ。」

yeah-I-cant-do-thisああそうさ、どうせおれは……どうせおれは……

 

 

14. 改宗者だからイスラムのことは【何も】知らないと思ってた、と驚かれる。

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15. 改宗者だろうがイスラムのことは【何でも】知ってないとだめだ、と叱られる。

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16. モスクとかハラカとかで紹介されるときの肩書きが「改宗者」。

tumblr_long91v7nv1qbgaqpちょっと待てコラ

 

 

17. 超絶ひとりぼっちのラマダン&イード。

17-nbc泣き出す半歩手前だったわよ

 

 

18. モスクで何かあったらしいんだけど、誰も教えてくれなかった。

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19. アラビア語学習にやたらと情熱を注ぎまくる。

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20. 結果、アラビア語学習をほとんどあきらめかけてる。

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21. 翻訳のコーランなら10種類以上持ってるんだぜ。

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22. 未だに自分がムスリムになったことを知らない友人たちとはとっくの昔に縁が切れている。

ezgif-60600189何もかもを捨てて来たんじゃ……

 

 

23. 御婦人マター:いったい何をどうすればチュートリアルでやってるみたいなスカーフの巻き方ができるのか。

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24. 一回だけ会ったことのある人からイードとか、パッケージツアーとか割引セールとかの長大なテキストメールががんがん送られてくる。

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25. モスクに通ってるうちに、色んな言語の良く聞くフレーズがかなり分かりはじめてくる。

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26. ベーコンってうまいんだろ?とか言ってくるやつ。

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27. アルコールに関する質問。っていうか質問系はもう全部やめにしよ?

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28. 「シャイフは誰なの?」「マルジャーは誰なの?」

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29. アラビア語が分からなくてもムスリムになれるということが分からないムスリム。

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30. 最初の数年は理解不能だったファジュルとかいうコンセプト。

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31. 初めてスフールを食べそこねたとき。

31-replygifきっと死んじゃうんだって思った

 

 

32. イスティンジャー。

32-giphy絶対無理

 

 

33. コミュニティのみんながイードの日を決めてるのを見てる。

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まあもうとにかく慣れたり、すり合わせたりしなきゃいけないことがいっぱいで、

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要するにアルハムドゥリッラー。

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サブル力がアップして、いちいち動揺しなくなりますように –– アーミーン!

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元のコラムはThe Muslim Vibeというサイトのこちらです:33 situations that converts to Islam know only too well

The Muslim Vibeは今年で3年めの、ムスリム周りの諸々を集めた読みもの系が中心のサイトです。最初は別のもっとdecent & delicateなのを日本語にする話だったのだが、なんとなくこっちを先にしてみました(別にこれ(↑)がdecent & delicateではない、と言っているのではない)。

キャット・スティーヴンス。何年か前に芸名をユースフ・イスラムからキャット・スティーヴンスに戻したんですよね確か。

キャット・スティーヴンス。
ああキャット・スティーヴンス、キャット・スティーヴンス。

「試訳:探求者の心得」

イブン・アラビー先生の小品「探求者の心得(仮)」を日本語に読んでみました。→ 試訳:探求者の心得

「探求者の心得」、Kitab Kunh ma la budda minhu lil-mulidの名で知られるこの小論は、1204年、探求者は「何を信じるべきか。またその始まりに、何よりも先にすべきことは何か」という質問に対する解答として1204年、モスルにて執筆された。この小論はトルコ語(Mahmud Mukhtar Bey, 1898)、スペイン語(M. Asin Palaciosによる部分訳, 1931)、英語(A. Jeffrey, 1962)といった複数の語に翻訳・刊行されている。

「あとがき」っぽいのがついてます。詩なんですけど。最高です。

追加しました:”Open Syllabus Explorer”を眺めて一言ふたこと

NYT紙(ウェブ記事)の日曜レビュー“What a Million Syllabuses Can Teach Us”に、「ザ・オープン・シラバス・プロジェクト」というのが紹介されていました。約2年の歳月をかけて、公開されている大学のシラバス情報を100万+集めたオープン・シラバスのデータベースだそうです。

で、それを元に構築されたシラバス検索エンジンのベータ版がウェブ上から閲覧できるようになっています:

Open Syllabus Explorer

現時点でのSyllabus Explorer(シラバス検索エンジン)の主な用途は、該当するテキストが過去10年間にどれくらいの頻度でアサインされているかの集計である。閲覧する者誰もが何かしらの意味を見出せるだろう。上位100冊を支配するのはトラディショナルな西洋古典群だ。2位はプラトン『国家』、3位は『共産党宣言』、5位は『フランケンシュタイン』。アリストテレス『倫理学』、ホッブズ『リヴァイアサン』、マキャベリ『君主論』、『オイディプス』そして『ハムレット』がそれに続く。

「何で『共産党宣言』なんかが上位にランクインしてるの?」と不思議に思ったそこのあなた。ご説明しましょう。『国家』同様にこのテキストは、歴史学・社会学・政治科学、といった具合に分野をまたいで頻繁に言及されているからなんですよ。

これ(シラバス検索エンジン)、大学ごととか国別(アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリアつまり英語圏)とか、フィールドとかでフィルタをかけたりして検索するのも楽しいです。とりあえず、オールジャンルの上位20冊50冊の邦訳を探してみました。以下にずらずらとリンクしてみます。


(1)『英語文章ルールブック』 ウィリアム・ストランク この御本の言いつけ通りに書けば文章はとってもハンサムになります。最初の版は1920年らしいですが、御本そのものはそれ以前から存在しており(著者のストランク先生がお手作りして受講学生たちに教科書として指定・配布していたそうです)、当時のキャンパス内でそれは “The Little Book”と、「ちっさな」の部分にアクセントをおいて呼びならわされていたのだそうな。

邦訳はすごい値段がつけられている。マーケットプレイスはこわいところ。何らかの必要があって英文メールを書かなきゃいけないとか、そういう生活を送っているむきには原書の方をおすすめ。何のことはない、本文85ページほどのほんとうに「ちっさな」本です。それでいて例文とか、おかしやすい語の選び間違いとかその場合の正しい使用法だとかをシンプルていねいに教えてくれます。


(2)『国家』 プラトン そういや石膏デッサンでプラトンとかソクラテスとか、ないなあ。あったらおもしろそうなのに。


(3)『共産党宣言』 カール・マルクス 「興味ないしー」とか毒づきつついろいろ探してたら、なんか解説もいっぱいついてて親切そうなの見つけました。本文だけなら青空文庫に堺利彦・幸徳秋水『共産黨宣言』あり〼た


(4)『生物学』 ニール・キャンベル


(5) 『フランケンシュタイン』 メアリー・シェリー 生物学の次点にこれ。


(6)『倫理学』 アリストテレス 『倫理学』ってニコマコスさんのかと思ったらなんか他にもいろいろあるんですね。


(7) 『リヴァイアサン』 ホッブズ 自分がかろうじてめくったことがあるのは中公クラシックスのやつなんですが、岩波のをひっぱってきました。表紙&レビューにみなぎる「万人の万人に対する闘争」感。


(8) 『君主論』 マキアヴェリ


(9) 『オイディプス』 ソフォクレス


(10) 『ハムレット』 シェイクスピア

(11) 『オデュッセイアー』 ホメーロス 「画像はありません」画像を作ってほしい>アマゾン。


(12) 『オリエンタリズム』 E. サイード このSyllabus Explorer上位テキスト一覧、誰に見せたいってサイード先生に見せたいですよ。

(13) 『英語論文の書き方』 トゥラビアン


(14) 『イーリアス』 ホメーロス


(15) 『闇の奥』 J. コンラッド


(16) 『カンタベリ物語』 チョーサー 著者名に山脇順三郎って書きそうになりました。


(17) 『アンティゴネー』 ソフォクレス それを言ったらギリシャものの著者はもうぜんぶ呉茂一。

(18) “Letter From the Birmingham Jail” マーティン・ルーサー・キング・ジュニア 初出は「アトランティック」紙、”Negro is Your Brother”と題されたキング牧師から南部の白人宗教指導者8名にあてられた公開書状で、公民権運動における古典的文書のひとつに数えられている由緒正しいテキストなのですが、日本語訳は見つけられませんでした。わたしの探し方がわるいだけでどこかにあるのかも知れないけど、ないのだとしたらちょっと……かなしい。<追記>わたしの探し方がわるいだけでした。ありました。

黒人はなぜ待てないか これの第五章がそれでした。


(19) 『自由論』 J.S.ミル 著者名に山岡洋一って書きそうになりました。


(20) 『科学革命の構造』 トーマス・クーン 著者名に中山茂って書きそうになりました。


(21) 『失楽園』 ミルトン 血沸き肉躍る冒険活劇譚の傑作なんですよこれ。


(22) 『功利主義論』 ミル 「世界の名著」シリーズ大好き。


(23) 『文明の衝突』 ハンチントン

(24) 『崩れゆく絆』 チヌア・アチェベ 新訳もありました。


(25) 『ソクラテスの弁明』 プラトン だんだん、「こうやって大昔からうだうだだべってばっかりいたのか地中海の連中は」っていうきぶんになってきた。


(26) 『権力論』 フーコー すみません、“Power”とだけ言われてもどれのことなんだかよくわかりません。だいたい権力のはなししてない時がない感じなので、いっそ全部読んどけばいいんじゃないでしょうか。え。いえ。いいです。わたしはいいです。


(27) 『種の起原』 ダーウィン そして図版入りで親切な簡略版。


(28) 『告白』 アウグスティヌス 「ワルだったおれが更正する話」がうけるのって何なの。


(29) 『政治学』 アリストテレス


(30) 『研究論文執筆マニュアル』 トゥラビアン

20冊まででやめておこうと思ったのに、なんかいろいろな意味で楽しくなってしまって30冊並べてしまいました。

しかしこれ、こうしてながめてみると圧倒的にメラニン色素が足りてなくないか。オスカーかよ。アカデミーだけに(注:わたしの中のサイード先生が言わせていることです。いえ、キング牧師ではないです)。

あるいはここで唐突に「西洋古典とか言ってるけどギリシャ人は西洋人なのかよ」問題を提起してみるという手もあるかもしれないが、それもそれであれなので、がんばってこのまま上位200冊くらいまでこのリストに足してってみようかと思います。

で、以下、ひとまず50冊まで足しました。


(31)『森の生活』 ソロー


(32)『アメリカにおけるデモクラシーについて』 トクヴィル


(33)『C言語プログラミング』 ダイテル


(34)『MLA英語論文の手引』 ジバルディ


(35)『A Pocket Style Manual』 ダイアナ・ハッカー


(36)『グレート・ギャツビー』 フィッツジェラルド


(37)『国富論』 アダム・スミス


(38)『対話篇』 プラトン


(39)『ニコマコス倫理学』 アリストテレス


(40)『性の歴史』 フーコー


(41)『自伝』 ベンジャミン・フランクリン


(42)『詩学』 アリストテレス (29)『政治学』も入っててお得。


(43)『Beloved』 トニ・モリスン


(44)『資本論』 マルクス 「全9冊」ぅ?!


(45)『テンペスト』 シェイクスピア


(46)『Methods in Behavioural Research』 ポール・コズビー 過去15年、もっとも読まれている心理学・行動科学分野のリサーチ入門書。だそうです。


(47)『ハックルベリー・フィン』 トウェイン 花子さんは『赤毛のアン』だけじゃないんですね。


(48)『社会契約論』 ルソー


(49)『The Bedford Handbook』 ダイアナ・ハッカー


(50)『黄色い壁紙』 シャーロット・ギルマン