にゅーずうぃーくめも

11/21付の、ニューズウィーク「イスラエルのガザ攻撃が持つ意味」というイラク政治がご専門の酒井啓子氏のお見立て。うーん。

なぜ突然、パレスチナでの戦闘が激化したのか。日本の報道の大半が「ガザを実効支配する”原理主義”組織ハマースがイスラエルにミサイルを撃ち込み、首都まで射程に入ったから」、それに対応してイスラエルが強硬手段に出た、と解説する。「ハマース=先に手を出した=悪者」との構造が、前提にある。

こうした切り取り方は、日本の報道のいつもの陥穽だ。その背景や長期的に続けられているガザに対するイスラエルの政策がどうなのか、考慮することなくごく短期間だけ取り上げて、どちらが先に始めたか、で判断しようとする。実際のところ、2008-9年にイスラエルがガザを大々的に攻撃して1300人以上のパレスチナ人の死者を出して以来、戦闘は繰り返されてきたし、ガザへの物資や人の移動を阻むイスラエルによる封鎖は続いてきたのだ。戦闘が激しくなったときだけの応酬を取り上げて「喧嘩両成敗」というのは、おかしな話ではないか。

きもちとしてよく分かる。んだけど、その後の

さて、今イスラエルがガザ攻撃を始めたのには、どういう意味があるのか。背景のひとつには、米大統領選でのオバマ勝利があるだろう。イスラエルのネタニヤフ政権はオバマと関係が悪く、専らロムニー陣営に肩入れしていた。オバマ政権が二期目で本格的に中東和平交渉に取り組むようになれば、ネタニヤフにとってはあまり面白くない。

だがそれ以上に重要なことは、今回の攻撃が「アラブの春」以来始めてのイスラエルの本格的攻撃だということである。

「「ハマース=先に手を出した=悪者」との構造が、前提にある」のがよろしくない、と言っているんだよね?ネタニヤフは(イスラエルは)中東和平交渉を望んでいない、という前提も同じくらいよろしくないのでは?

それでも、きもちとしてはよく分かるよ。んだけど、

(ちなみに、日本のメディアはハマースを「原理主義集団」と呼ぶが、同じイスラーム主義政党でも自由公正党やトルコの公正発展党には「原理主義」と呼ばない。ハマースを「原理主義」と呼び続けるなら、いっそエジプトのムルスィー大統領のことを「原理主義者の大統領」とでも呼べばいいじゃないか、と思うのだが。)

と、いうような、「原理主義とは何か」的というか「そもそも」的というか、一歩それると言葉狩りに堕してしまいそうな方向へ持って行ってしまうのも、日本の報道のそれと同じ程度には、日本の学者の「いつもの陥穽」だろうと思う。ハマ「ー」スって表記すればハマスが日本のメディアが定義するところの「原理主義」じゃなくなるのか。仮に「ハマスを原理主義集団と呼ぶのは過ちである」というのが酒井氏の主張なのだとして、その主張が正しいことの証明もどこにも書かれているわけでもなければ、ではハマスは何であると主張したいのかもよく分からない。用語の混乱に乗じて、その用語で語られるものの実体を混乱させようとしているふうにしか思えない。

ハマスはハマスで結構むごいよ?マフムード・ダルウィーシュさんという詩人さんがいる。2008年にお亡くなりになった時には国葬が行われたほど、パレスチナの皆さんには国民的詩人として愛されていたひとだ。そのマフムード・ダルウィーシュさんなども、お亡くなりになる2、3年前には、ハマスがパレスチナのある音楽フェスの開催を禁止したというので「私たちの内部に、タリバンじみた連中がいる」とハマスを批判していたよ。

ムルシー氏のことは良く知らないし、就任後も色々と批判が出ていたりはするけれど、それでも「批判が出ている」=批判ができる、ということ自体がすごいじゃないか、くらいには思ったりする。パレスチナの離反ムスリムを相手にちょくちょく粛清やったりしているハマスと、その他の政権を同列に語れというのは、たとえ皮肉のつもりだとしてもちょっといかがなものかと思う。

エジプトの大統領のひとがガザへ行った、っていうのはかなりインパクトのある出来事だし、アメリカがイスラエルの自衛権を支持する、と言っているのは要するに「手の届く範囲」のことしかしませんよ位のことであるし、そのかわり、というのもおかしいかも知れないけれど、トルコやヨルダン、湾岸諸国がわさわさと忙しそうにしているのとかはどうでもよいのだろうか。週1の更新だし、タイムラグもあるから仕方がないのかな。

こんなふうに、ひとの言うことにけちばかりつけるのも良く無いなあとは思う。それでもなんだかがっかりしてしまったというのが正直なところ。「イスラエルが一番困るのは、周辺国が民主的な親米・反イスラエル政権となることだ」とかさあ、なんかこう……。どうしてそんなに煽り気味なの。

まあいいや。

「アラブの春」以降に樹立した新政権の皆さんには、反米でも反イスラエルでも何でもいいので、自分たちのお国の皆さんが一番困らないことを目指して下さい、と心から思う。

別のところに書いたのを、こちらに保存しました。