ダンボ、マララ

NYのあちこちで落書き巡業中のバンクシーが何やら動画を公開していた:

「Rebel rocket attack」というタイトルの、1分30秒の中に色々詰まっている(ように見える)動画。左下に(ごていねいに)アルジャジーラのロゴが映った状態で始まって、rebel(反乱軍)が空に向ってロケット砲をぶっぱなすと命中して落ちて来たのはダンボ。「アッラーフ・アクバル!」「アッラーフ・アクバル!」と大喜びの男たち。小さな男の子が心配そうにダンボを覗き込み、後ろからやって来たもう一人の大人にケリを入れる。おしまい。

この動画が、あっと言う間に400万view超の視聴数を稼いでいる。あちこちのメディアでも取り上げられているけれど、でもバンクシーがこの動画を通して何を言おうとしているのかっていうのはなんかまだ解釈がほとんど出ていないというか。「これは一体どう解釈すれば……?」みたいな感じになってる。

youtubeのコメント欄を見ると、結構な数の人が「ダンボ、RIP」とかとやっている。こういう目に合うはずがない、合わせちゃいけないキャラなんですねダンボは。ダンボにあまり思い入れのない文化圏にいるわたしには、むしろ「そこが君らのツボなのですか」と新鮮に映る。

シリア内戦(って、もう呼んじゃって良いだろう)について。政府軍も反体制派も、ものすごい数の動画や写真を次々にネット上にアップロードしている。戦争当事者がここまであけっぴろげに情報発信しちゃうってどういうことなんですか、っていうくらい。そしてそれをまた多くの人が見ている。見ているはずなんだけれど、アメリカが参戦するかも?ってなった時だけは「瞬間視聴率」がものすごい上がったものの、なんかもう全体的にダれにダれてるというか何ともならない感じで、それでも毎日毎日ものすごく夥しい数の写真やら動画やらが出回り続けている。

そういう動画の中で、どれかひとつでも公開してからたった3日で400万viewを集めるほど注目を浴びたものがあっただろうか。匿名グラフィッカーが作成した1分30秒の「おふざけ」の中で殺された非実在ダンボと同じ量の「RIP」を受け取った実在の死者はいただろうか?

FP誌はこの動画を「バンクシー、反乱軍とアルジャジーラとディズニーのパロディを作成」という見出しで取り上げていたけど、いやあ。パロディにされてるのはどう考えてもおれたちの方だよなあ、と思ったのだった。


というか、何も↑の動画が目的でガーディアン紙のサイトを開いたのではなかったのだった:Malala Yousafzai: ‘It’s hard to kill. Maybe that’s why his hand was shaking’

マララ嬢のインタビューが掲載されている。彼女を狙撃したのは20代の、「まだ男の子と呼ばれるような年頃の人物」で、彼女を撃つとき彼の手は震えていた、という見出しの記事。「人を殺すのは怖いことだったろうと思う。だから、彼の手は震えていたのだろう」と言っている。

インタビューのページの右側カラムにバンクシーの動画へのリンクがあったため、ついつい先にそっちを視聴してしまったものだから、記事を読みながら最初はマララ嬢がダンボに見えて仕方がなかったのだけれど、読み進めてみたら腹が座っててなんかすごい。「かよわい少女がけなげにがんばってる」とかという程度のはなしではない。「政治家になりたい」という彼女の発言があちこちの報道で取り上げられていたけれど、その発言にしても、一連の出来事について政治臭がすると言われていることについても、「だって私自身が政治家志望なんだから当然だと思います」と、批判になっていませんよ、と言っている。「金を稼ぐのが目的で外国に行ったんだ、汚い、狡い、アメリカの手先だ、CIAに違いない、……皆同じことを言う。気にしない。私には目的がある」。つよい。


マララさん:ノーベル賞期待、住民は報復恐れ沈黙

御一家が現在イギリス在だからか何だか、英紙はどこも一団となってマララ、マララとやっている。ノーベル賞誘致じみている。取っても取らなくても、どっちにしてもバックアップはし続けてあげてほしい。持ち上げた以上、引きずり降ろすみたいなことはしないであげてほしい(例:アヤーン・ヒルシ・アリ)。何て言うか。

これはあれだな、初めて『風の谷のナウシカ』観たときにほんのり感じたもやもやと一緒だなあ。

別のところに書いたのを、こちらに保存しました。