なんとなく、続きます

British Artist Sarah Maple Receives Death Threats For Art about Feminism and Islam と、いう記事を目にしました。「英国人アーティストのサラ・メープル、フェミニズムとイスラムを扱った作品がもとで殺害脅迫を受ける」。おだやかじゃないですね。

英国人アーティストのサラ・メープル。多くの場合その作品は、英国籍の白人の父とイラン人ムスリムの母を持ち、カソリック系の学校に通ったという自らの複雑なバックグラウンドを扱っている。

2007年にチャンネル4とサーチ・ギャラリーが新進のアーティストに贈るニュー・センセーション賞を受賞すると、彼女のプロ・フェミニスト的作品は議論の的となった。彼女のサイトをスクロールすれば、沢山の彼女の自画像を閲覧できる。ベビー服、ブルカ、白雪姫といった衣装をまといさまざまなポーズをとるそれらの作品は、エンパワーリングと受け取る人もいればその逆と受け取る人もいるだろう。

絵画作品”Menstruate with Pride(2010)”では、クロッチに血の染みついた白いドレスを着てこぶしをあげる彼女が眉をひそめる見物人たちに取り囲まれている。

新たに発売された彼女の画集“You Could Have Done This”には、ヒジャーブを着て豚を抱きかかえる彼女の自画像も含まれる。「攻撃されているのはもっぱらあの作品」、彼女はそうガーディアン紙に語っている。「自宅の窓にれんがを投げ込まれて、それから殺害の脅迫を受けるようになった。わたしは自分の言いたいことを言っていいと思いたいけど、たぶん深いところではそうするのが怖いとも思うようになった。粛清みたいなものだと思う」。

脅迫や内なる自主規制への怖れを抱きつつ、彼女のサイトによればメープルは2016年に控えた展覧会に向け言論の自由をテーマにした新たな作品に取り組んでいる。

彼女のサーチ・ギャラリーの作品紹介ページを拝見しました。“I’m an edgy, contemporary artist”というセルフ・ポートレートに笑ってしまいました。“White Girl”もいいです。うん。ビジュアル・アーツは一目見て一発で「わかる」のがいいですね。どれもこれも、言葉で説明しようとすれば相当まだるっこしいことになりそうなシチュエーションが茶目っ気たっぷりに描かれていて好きです。

まあそうは言っても同時に記事文中にあるガーディアン紙のインタビューも読んでみて、

「ママはわたしの言うことには完全に賛成してくれてる。ただ、わたしの言い方が大嫌いなんですって。彼女はすごく信心深いの。今なんて断食してるし。でもわたしは彼女についても何かやりたいし、どうにかして彼女を巻き込みたい。まったくその気になってくれないけど。こうなったらもう彼女には内緒で先にやっちゃって、後で言えばいいかなって」

彼女の母上の仰りようにもおおむね同意します。いや、同意というか。こどもがこういうのをせっせせっせと描いたり作ったりしていたら、内心はともかく一応はたしなめておくのがおとなというものだ、などと。

「ヒジャーブを着て豚を抱きかかえる彼女の自画像」は彼女のサイトに公開されていました。

"Haram" 2008, Sara Maple
Sarah Maple – Official website of the young contemporary artist

これ、彼女のサイトのギャラリーページからpress thisというツールを使って引用してみたのですが……あっさり表示できちゃってらくちん過ぎてこれで大丈夫なのかどうか逆に不安になってくる。

それはともかくまあもう説明通り・見た通りそのまんまな作品ですが、タイトルの”Haram”でやはりどうしても口元がゆるんでしまいました。まじめくさった表情がまた。

「ハラール」というと、いわゆるイスラム法学において定められているところの「合法」を意味する語として近頃は日本でもすっかり新しいカタカナ言葉として定着しつつあります。同様に、その反義語という位置づけで定着しつつあるのが「ハラーム」で、こちらは「非合法」。ただしいずれも定着の仕方が少しばかり偏っているというか、もはや豚とアルコール/それ以外、の別称のような扱いです(実際には豚やアルコールを消費する行為が「ハラーム」なのであって豚やアルコールそのものが「ハラーム」というのではない(はず)です。また、他に代替品がなく使用すれば効能のあることは認められている場合に「ハラーム」とされるものを使用するのは「ハラール」です。例えばもうずっとごはんを食べていなくてこれ以上食べないと死んじゃう、というような時には豚肉を食して生き延びることの方が「ハラール」ですし、外科手術の器具を消毒するのにアルコールを使用するのも「ハラール」です)。

その上で、当該作品のタイトルである「ハラーム」という語にはこのような意味も:

Haram (hah-ram): A holy place, a sanctuary. Mecca is referred to as Masjid al-Haram and the al-Haram al-Sharif in Jerusalem is the location of the Dome of the Rock and the Masjid al-Aqsa. (“Encyclopedia Of Islam And The Muslim World” p751)

ハラーム:聖所、聖域。メッカはマスジド・アル=ハラームと呼ばれ、また岩のドームやマスジド・アル=アクサーのある地域はアル=ハラーム・アル=シャリーフと呼ばれる」。

……ハラームは、メッカのカーバを囲む聖所がマスジド・アル・ハラーム(聖モスク)と呼ばれるように、神聖不可侵をも意味する。ハラームと同じ語根から派生したハラムは、流血・殺生・伐採不断の地、つまり聖域を意味し、前イスラム時代にはメッカ周辺がハラムとされ、イスラム時代には、メディナ周辺の地、およびエルサレムの岩のドーム、アクサー・モスクを含む区域もハラムとされた。(『新イスラム事典』 p405)

と、いう具合に。更にこの「ハラーム」と語根を共有する語に、これもまたカタカナ言葉としてよく知られる「ハーレム」というのがあります:

HAREM
The practice of the harem (Ar., harim), or the seclusion of women, dates back to the pre-Islamic period. The root h-r-m also refers to al-haram al-sharif, the sanctuary of Mecca as the reserved space for Muslims. The form harem connotes a sacred and inviolable space, which is forbidden to any men, other than the members of the immediate family. Its institution and derivate forms have been common in theMiddle Eastern and Mediterranean cultures as an integral part of royal and upper-class families. …(“Encyclopedia Of Islam And The Muslim World” p291)

ハレム:ハレム(アラビア語でハリム)、すなわち女性隔離の慣習は前イスラム時代にさかのぼる。また語根 h-r-m は al-haram al-sharif 、ムスリムのための場所と定められたメッカの聖所とも関連がある。ハレムと言った場合、それは肉親たち以外のどのような男性にも禁じられた神聖不可侵の場所という意味が含まれている。この制度とそこから派生するあらゆる慣例は、貴族や上流階級の家庭において不可欠な要素として中東および地中海文化に共通している」。

ハレム|harem
アラビア語ハリーム harim がトルコ語に入ったもの。出入禁断の場所の意だが、とくにイスラム世界において家屋内の婦人専用の部分を意味する。イスラムの風俗習慣には、ジャーヒリーヤ時代からのアラビアのそれが引き継がれたものが多いが、婦人がヴェールで面部や他の部分をも覆う風習もイスラム以前からあった。しかしハレムに押し込められることは、イスラム時代になってから、とくに厳しく行われるようになった。……(『新イスラム事典』 p412)

事典便利。でもこうして引用するのはらくちんはらくちんですが、「ジャーヒリーヤ時代」なんてことばにでくわしちゃうとそっちの項も引用してこないとまずいかなみたいなきぶんになります。と、いうか何故そんなジャッジメンタルな語をもってきたんだ。

うーん。なんとなく、続きます。