「心の負担を減らしつつ、ガザをサポートするために」

Mental Health 4 Muslims (MH4M)というウェブサイトがあります。ふたりのムスリム女性が中心となって運営している「ムスリム・コミュニティ周辺のメンタル・ヘルスに関わるイシューについての情報を発信する」ことを目的としたサイト、というもので、時折、閲覧したりしています。興味深く、有用と思えるトピックスがたくさんあります。

その中からひとつ、サイト運営者のひとりであるNafisa Sekandari氏のエッセイから、昨年(2014年)7月17日に公開された“Supporting Gaza While Reducing the Psychological Stress on the Self”というタイトルの記事を以下に日本語に読み下しておくことにしました(氏の承諾は得てあります)。

 


心の負担を減らしつつ、ガザをサポートするために

ここ数週間というもの、わたしたちはメディアを通じてガザから届けられる映像の攻撃にさらされ続けています。どれもひどく悲しくもあり、また怒りを覚えずにはいられないものばかりです。わたしたちは、犠牲者の家族になったかのように胸を痛めています。彼らが日々、味わわされている恐怖と脅威は想像を絶するものです。彼らのために祈りつつ、ニュースフィードに流れてくる陰惨な画像から目を離せずにいます。無力を思い知らされながら、そうした画像を「シェア」します。イスラエル軍による、罪なき子どもたちや一般市民の虐殺に対する、世間の関心を高めることこそ自分たちの使命なのだ、といわんばかりに。無数の報道や記事に目を通し、凄惨なミサイル攻撃の映像を視聴し、情勢について家族や友人に話します。そうこうしているうちにわたしたちは、やがてそれが肉体的にも精神的にも、自らの人生にどれほど多大な影響を与えているのかを理解することもないままに、争いに引きずり込まれていたことに気づきます。ここで言う「影響」は、肉体面においても精神面においても、長期的には重大な帰結をもたらします。わたしたちの心理上におけるこの影響を、研究者たちは「集団的トラウマ(心的外傷)」と呼んでいます。

カリフォルニア大学の心理科学者Roxane Cohen Silver教授、Irvin教授とその研究チームは、メディアを通じた鮮明なトラウマ的イメージに繰り返しさらされ続けていると、精神面のみならず肉体面でも長期に渡って健康上のネガティブな結果を引き起すおそれがあるとの仮説を提示した。こうしたメディア摂取の仕方が長引くほど、健康面での問題と関係するさまざまな生理的プロセスを誘発するストレス反応の引き金になりえるとしている。カリフォルニア大学Irvine教授は「毎日、メディア報道に6時間かそれ以上さらされている人々の方が、直接さらされている人々 –– つまり、爆撃の現場にいる人々 –– よりも急性ストレス下にある徴候を示すという報告が実際に確認されている」、と述べている。
(参照:Repeated Exposure to Media Images of Traumatic Events May Be Harmful to Mental and Physical Health)

過去に精神的疾患やトラウマを負った経験のある人が、一日じゅうメディアとフェイスブックに向き合えば、実際にストレス反応を悪化させるおそれがあります。傷つきやすい人ほど、自身のトラウマ的経験を投影するかのように、ソーシャル・メディアに映し出される世界から離れがたくなりがちなのです。こうした関わり方は、最初のうちこそ有益なように思えますが、しかし繰り返し身をさらしていれば、それは自分を苦悩のサイクルに「いつまでもとどまり続ける」者として固定化してしまうことになります。子供たちが殺されたり、重傷を負ったりしているグラフィック・イメージに、自らを終始さらし続けたところで、精神的な益は何ひとつ得られない、と認識することが重要です。おそらくそうしたイメージが意識の中で現れては死に、死んではまた現れるということが、長期に渡ってくり返し引き起こされるでしょう。

イスラム的な視点から言うならば、わたしたちは皆「視線を下げる」という考え方について、十分に承知しているはずです。その対象は、不適切な異性間交遊や露骨な性的イメージといったもののみに限られません。目は魂への入り口である、と言われています。人間は目も、身体のあらゆる部分についても、常に善良なるものにふれさせるべきであり、非道や暴力、衝撃的なものに、四六時中ふれさせるといった状態は避けねばなりません。

神はコーランにおいて、こう伝えています。「男子の信者に、目を伏せて隠し所を守るように言え。……(24章30節)」。

イブン・アル=カイイム(彼に神の平安がありますように)はこう伝えています。「目、耳、口、陰部、そして手足は身体の七つ道具である。それらは破滅を招くこともあれば、救済をもたらすこともある。この七つ道具を無視し、これを守ろうとしない者は滅びるが、これを守り、大切にする者は救われるだろう。この理由から、これら七つ道具を守ることがあらゆる善の基礎となる。これらをないがしろにすることが、あらゆる悪の根底にある」。

さらにまた、わたしたちは、死者と向き合う際には敬意を持って丁重に取り扱うよう命じられていることも忘れてはなりません。犠牲者の画像を眺めたり、彼らの死にゆく様子を撮影した動画を眺めたり、焼かれたり傷つけられたりしている彼らの遺体や、彼らの死に際に直面した家族の反応を眺めたりというのは、プライバシーのはなはだしい侵害であるというだけではなく、わたしたちの伝統の一部分ですらありません。そのような行為は、ソーシャル・メディアの時代にありがちな、予想外の、もしくは不運な出来事です。人によっては、世間に現状を知らしめ、良い変化をもたらすためには必要な行動なのだ、と、主張しさえするかもしれません。しかし一人ひとりの個人としてわたしたちは、いついかなる状況であろうとも死者の尊厳は守られねばならず、死者に対しては敬意をはらうよう神に命じられていることを、思い起こさねばなりません。

人がこの世を去るときには、希望や優しさ、親愛の情をさし示してくれる家族と友人(世界中の、全く見ず知らずの赤の他人ではなく)に見守られ、それから神以外に崇拝するべき者もいないことを確認するための言葉、「シャハーダ」を唱えるようはげまされるのが通常のあり方です。死が訪れたとき、周囲の人々は「本当に、わたしたちは神の有であり、わたしたちはみな神の御許へ帰ります」と唱えるよう教わっています。それから死者の目と下あごを閉じ、清潔な布で覆ってやらねばなりません(立ったまま遺体を見下ろして写真を取り、それと分かるよう世界じゅうに向けてインターネットに投稿し、更にそれを「シェア」するのではなく)。それから神に、死者が生前に犯した罪をゆるしてくれるよう、ドゥアを捧げねばなりません。

これが死者に対し、わたしたちがはらうべき最低限の配慮と敬意であり、それはたとえインターネットが発達しようが戦争の時代であろうが、変えてよいことにはならないでしょう。

あなた自身を守るために

1. できる限り、暴力的な画像(や映像)を避けるようにしてください。ガザの犠牲者を哀悼するのに、写真を見る必要はありません。

2. 率先的であろうとするなら、実際に行動を起こしてください。ボイコット、抗議、意見書、政治的な公的機関にコンタクトを取る、犠牲者のために祈りを捧げる、そして助けを必要としている人たちのために金銭を寄付する、などです。

3. ガザの犠牲者を援助する組織をサポートしましょう。

4. 家族や友人を大切にし、彼らと良質な時間を過ごしましょう。ニュースに夢中になるあまり、自分にとって最も近しい人々を無視するようでは本末転倒です。ニュース番組を消し、フェイスブックを閉じ、親しい人々と時間を過ごしてください。

5. 他人ではなく、自分自身の宗教実践に集中してください。ラマダン月最後の十日間は、特に意識してそうしてください。もっとコーランを読み、タフスィールを読み、ハディースを読んで過ごしましょう。

6. 自分の感情をきちんと観察してみてください。自分に近しい間柄の人に対して怒りをぶつけるという行為について、もっと慎重になってください。ソーシャル・メディア上で感情的にふるまうのは簡単なことです。誰に対する怒りや不満を、誰に対してぶつけているのか、よくよく考えて心に留めてください。フェイスブックでイージーな標的探しをするよりも、実際に戦争に加担している人物たちに対して抗議文を書くことで、そのエネルギーを有効に活用しましょう。

7. トラウマ的な画像や映像に自分がどう反応しているか、その時の感情を言語化してみてください。日記に書いてみるなり、友人や家族と話し合うなりしてみてください。もしも話し相手がいないなら、しっかりとした訓練を受けたメンタル・ヘルスの専門職に話してみてください。

8. 何か楽しめることをしてください。散歩に出かけたり、自然とふれあったりしてください。あなたの助けを必要としている人々がいます。ボランティアに参加してみてください。

9. 深呼吸をしてみましょう。リラクゼーションのためのエクササイズを、日常生活に取り入れましょう。

10. ガザの犠牲者のために、以下のドゥアを唱えてください。

اللَّهُمَّ اغْفِرْلَنَا وَ لِلْمُؤْمِنِيْنَ وَ الْمُؤْمِنتَ
وَ اَصْلِحْهُمْ وَ اَصْلِحْذَاتْ بَيْنِهِمْ وَ اَلِّفْ بَيْنَ قُلُوْبِهِمْ
وَ اجْعَلْ فِىْ قُلُوْبِهِمُ الاِيْمَانَ وَ الْحِكْمَةَ
وَ انْصُرْهِمْ عَلى عَدُوِّكَ وَ عَدُوِّهِمْ

Allahumma aghfir lana, wa lil mu’miniina, wal-mu’minaati,
wa aslih-hum, wa salih dhati bayynihim, wa allif baina quluubihim,
waj’al fi quluubi-himul imaana wal hikmata,
wa-nsurhum ‘ala’ ‘aduw-wika wa ‘aduwwihim.

アッラーよ、わたしたちをおゆるしください。
かれら信仰する男女をおゆるしください。
あやまちを取り除いてください。
心に、平安と愛をもたらしてください。
心に、しっかりとした信仰と知恵を注いでください。
かれらを、あなたの敵とかれらの敵の勝利者たらしめてください。

 


Sekandari氏はアフガニスタン出身。日本でいうところの(たぶん)臨床心理士の資格を取得し、現在は米国アリゾナ州でカウンセラーをされているそうです。


Afghan Cuisine: A Collection of Family Recipes

Sekandari氏によるアフガニスタン家庭料理レシピ・ブック。子供時代にアフガニスタンを離れた氏が「ちゃんと作り方をまとめておかないと、この先アメリカでアフガニスタン料理が食べられなくなってしまう」と考え、お母さまからの聞き書きで手製のレシピ・ノートを作ってみたのがこの御本の成り立ちだとのこと。成人してのちに再びカブールその他を訪問した、アフガニスタン里帰りの記録なども収録されています。

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