他のお山の石としたいと思った話

「連邦裁判決『空飛ぶスパゲッティ・モンスター崇拝は宗教とは認められない』」という記事を読んでいました。
“Worshipping the Flying Spaghetti Monster is not a real religion, court rules”

「空飛ぶスパゲッティ・モンスター教」で検索してみたら、↑のできごとと前後して「空飛ぶスパゲティモンスター教会、世界初の「パスタ婚」執行 NZ」なんていうのを見ました。あとこれとか:「【海外発!Breaking News】「空飛ぶスパゲッティ・モンスター教会」ついに正式な宗教に(オランダ)」

でもネブラスカ州では、ニュージーランドやオランダと同じようなわけにはいかなかったみたい。州刑務所で銃器の不法所持のかどで服役中の受刑囚氏が、刑務所内での「パスタファリアニズム実践」が阻害されたと500万ドルの損害賠償請求に加えて、「教義に沿った服装とアクセサリー類の着用、週に一度の典礼儀式と信者同士の集会の実践」を認めるよう求めて裁判を起こしたのがはなしの始まりで、それに対する連邦裁の判決がこちら(PDF)。

要するに「せっかく出来のいい作品だというのに、おまえのような読解力のない読者がつくと傑作が台無しになるからやめろ」みたいなことが書いてある。

FSM(フライング・スパゲッティ・モンスター)イズムは、インテリジェント・デザイン論に対する反撃として、カンザス州教育委員会がこれ(の教育課程への導入)を検討していた際に提出された公開質問状と共に始められたものである。これについてはボビー・ヘンダーソン「フライング・スパゲッティ・モンスターの福音書(2006)」111-13参照。インテリジェント・デザインに対する主要な –– また、これを学校教育における科学の授業からこれを除外すべきとする基礎的な –– 批判とは、それが「科学的である」と自称するも、実のところは科学ではなく「興味深い神学的論争」であるというものである。これについてはKitzmiller, 400 F. Supp. 2d at 745-46参照。FSMイズムの自負すべきところとは、インテリジェント・デザイン論が「偉大なる知性」と呼ぶところのデザイナーを特定していないがゆえに、ユダヤ=キリスト教の神と同様、単なる「フライング・スパゲッティ・モンスター」でも構わないだろう、それに事実、他のどんな創造者とも同様の科学的な証拠がフライング・スパゲッティ・モンスターには存在する –– このように主張したその機智にある。これについては「フライング・スパゲッティ・モンスターの福音書(2006)」3-4参照。(……)

これは神学上の問いではない。基本的な読解能力の問題である。FSMの福音書は明らかに風刺作品であり、鋭い政治声明にエンターテインメント性を持たせようとの意図を持ってなされたものである。それを宗教的教義と解釈していたのでは、その他のどのようなフィクション作品に「宗教的実践」の基礎を置いてもほとんど構わない、ということになる。囚人がヴォネガットやハインラインの作品を読んで、それを自分の聖書だと主張し、ボコノン教だの、チャーチ・オブ・オール・ワールズだのに便宜をはかるよう要求できてしまう。これについてはカート・ヴォネガット『猫のゆりかご』 (Dell Publishing 1988) (1963)ならびにロバート・ハインライン『異星の客』(Putnam Publ’g Grp. 1961)参照。当然のことながら、 –– そしてカヴァノフ原告もその一人であると推察されるが –– 聖書やコーランもそうした書籍と同様にフィクションに過ぎない、といった反論を述べる者もあるだろう。こうした線引きは、必ずしも簡単になしうるものではない。しかしそれでも何らかの線引きはなされねばならず、原告がそう主張しているからというだけで、それが「宗教的」な実践の範疇であるとすることはできない。FSMイズムは、その範疇のはるか埒外にあるものと法廷は結論する。

判決文を書いたひと、書いてて楽しかったろうなと思いました。

教団(?)公式サイトにも「おれたち、ちゃんとした宗教じゃないって言われた」みたいなブログがあがっていました。そして「色々なメディアで取り上げてくれてるけど、これがいちばん好き」とオレゴニアン紙の記事が紹介されていた。
Bad news, Flying Spaghetti Monster followers: Judge ruled Pastafarianism isn’t a real religion

判決文を書いた判事氏は「フライング・スパゲッティ・モンスターの福音書」を相当に読み込み、FSMイズムの「雰囲気を感じとる」ために、自分の下す判決の文書に裏書きとして同書から以下を引用していたのだと。

What drives the FSM’s devout followers, aka Pastafarians? Some say it’s the assuring touch from the FSM’s Noodly Appendage. There are those who love the worship service, which is conducted in Pirate-Speak and attended by congregants in dashing buccaneer garb. Still others are drawn to the Church’s flimsy moral standards, religious holidays every Friday, and the fact that Pastafarian Heaven is way cooler. Does your Heaven have a Stripper Factory and a Beer Volcano?

「空飛ぶスパゲッティ・モンスター教」を最初に言ったひとはかっこいいかな。でもなんかそこにぶらんぶらんぶらさがってるだけで何か言ってやった、みたいな気になってるひとはあんまりそうでもないかな。他のお山の石としたいところであります。

どうでも良いのですが、判決文読んでて「こういうときにはどう反応するのがムスリムとしてポリティカルにコレクトなんだろう」などと、みみっちいことを考えてしまった。深夜過ぎになって自責の念にかられておるところです。迷わず「相対主義者に逢うては相対主義者を殺せ」路線を走れるよう、常に意識を高く持っておけるようになりたいものです。