2016年第1四半期の御本:読んだのも読んでないのも

WordPressをもういっこインストールしてみました。よしできたぞ、と思ったらブラウザに「データベース確立接続エラー」なんていう文字が出たりして「ぎゃあ」となったりもしたけど、なんだかんだ解決しました。小1時間くらい。


From Fatwa to Jihad: The Rushdie Affair and Its Aftermath
ケナン・マリクの『ファトワからジハードまで:ラシュディ事件とその波紋(勝手に邦題)』。来年、改訂新版が出る予定とのことなので、その前に何となーくめくり直してみたりとか。

サルマン・ラシュディのファンです!というのでは特別ないが、ほどほどに読んではいます。『ハルーンとお話の海』とか、『東と西』などはわりとさらさらしていて、普通に「小説家やってます」という感じでよい。


『イスラーム世界の論じ方』
池内恵の、池内恵の……(勝手に英題をつけようとして5秒で挫折。日本語の「イスラーム世界」と、英語のMuslim WorldとかIslamic WorldとかMuslim Majority Countriesとかというのは文字通りほとんど対応していない)。これもなんか増補版を出すとか出したいとかというのをふわっと耳にして、何となーくめくりなおしてみた(さきほど検索してみたところ、「2016/5/10 予約可」となっているけれどこっちなんかはもう蜃気楼かよ、っていうくらい美事な遠のきっぷりで、これが砂漠だったらとっくに死んでるので油断がならないですね)。

どれをと問われたら、「おさらい」しておきたいのの筆頭は第6、第7章。あと第4章の一番最後の「周縁の文学」が地味にいいです。


1001 Inventions: The Enduring Legacy of Muslim Civilization
『千と一の発明:イスラム文明の不朽の遺産(ぎこちない勝手な邦題)』。某所の寺男氏(仮名)が貸してくれたのでめくっているところです。

イスラム(ムスリム)の、いわゆる黄金時代と呼ばれる時期に生まれたさまざまな発明なり、社会制度なりを紹介する御本。基本的にはイラストや写真といった画像が中心の箇条書き本なので、読むのがらくです。この”1001 Inventions”というの、これ千夜一夜にかけてあるんですね。うまいよね。当初からこれのための非営利団体が立ち上げられていて特設サイトなんかもあって、巡回のエグジビジョンなんかもやってたりして。こういうのはどこの誰がどういうあれでやってるのかなー、なんていうのが気になったりもしたりしなかったりするのは、わたしのこころがすっかりよごれているからです。

ずいぶん昔にこれのプレス用ブリーフっぽいのを訳したような訳さなかったような、そんなこともあった割には本体はずっと未読だったんですが、いい御本です。うん。

後は何をめくってたっけ。あっそうだ、


『オスマン帝国の時代』 (世界史リブレット)
『真理の天秤』を読んでいるときに、ところどころまったくこう、想像もつかないしさっぱりわからない、という箇所があり、そうは言っても早く読み進めたいし、何か手っ取り早いのはないだろうかと本屋さんにいったらこれがあった。そしてこれがすごかった。ほぼだいたいにおいて解決した。

同じ著者氏の御本『オスマン帝国500年の平和』というのをずっと前に購入していて、でも読まずじまいにしてしまっていたのを(何しろ五百年ぶんなので……)、今ようやくぽちぽち読みながら『天秤』の注をつけてるところです。

とりあえず、このような感じです。

“Mizan al-haqq”、あとは注をつける

2月末に読み下し始めた『真理の天秤』の、本文はこれでおしまい。
結語. 著者に対する神の恩寵の詳述ならびに二、三の推奨

注はおいおいつけてゆきたい。そもそもの知識不足の解消が喫緊の課題であります。

英訳と注釈のG. Lewis/ジェフリー・ルイスという先生については、ちこっとだけwikiにもありました。英語版の方を見るとこれよりちこっとだけ詳しくて、オックスフォード大学でトルコ語の教授だったそうですが、彼がその職に就任する以前はトルコ語学科自体がなかったんだそうです。セント・ジョンズ・カレッジで古典をやっていたところに第二次大戦が起きて、二十歳で英国空軍に従軍→リビアとエジプトに行き、帰ってくるとオクスフォードに復学→但しアラビア語・ペルシャ語に転科。トルコ語は最初は「趣味で」始めたんだそうです。趣味で。趣味で!!

ルイス先生のトルコ語自習本は、書かれてから半世紀が経過した今でも学生さんの必携本になっているというのでじゃあこの際だからそれ買っちゃおうふんふん、はなうた混じりでアマゾンに見に行って、

The Turkish Language Reform: A Catastrophic Success
カートに入れたのはこっちだった(なか見!検索で覗き見したら、『天秤』とは文体がぜんぜん違うところに惹かれた)。

よくあることです。

久々に部屋のどこかから発見された『ペルシア逸話集』を

本棚を買い足しました。おうちのなかがすっきり※当社比しました。

本、読んでいる間は台所だとかテーブルの上だとか、椅子の上だとか床だとか枕元だとか、とにかく本棚以外のところにあります。試しに現時点の自分の机の左側を見ると9冊、目の前に1冊で合計10冊ありました(でもそのうち4冊は辞書とかなので、あんまり「読んでいる間」とかというのではないですね)。

でもそろそろ、そういう読んでいるところだからとか使っている最中だからとかというあれではなくなってきたので本棚を買い足したのです。それでわっせわっせと整理整頓してみてから「あ、本棚が足りてなかったんだ」と気がつきました。

すごく気分がいいので、久々に発見されたこれを再読。

『ペルシア逸話集 カーブースの書・四つの講話』

古本が500えんくらいから出ていました。

ペルシア逸話集 (東洋文庫 (134))

わたくしの手元にあるのは箱の左上に鉛筆で「品切 1700円」とあり、どこかの古本屋さんで買ったものかと思われます。ちなみに箱の右下には定価が「450円」とあります。昭和44年です。アマゾンで500円かあ、いいな。

『ペルシア逸話集』とありますが、『逸話集』というか収められているのは『カーブースの書』と『四講話』という、それぞれ著者も時代も別々の二つの作品です。あ、時代はちょっとかぶってるか。

この、『カーブースの書』がおもしろいです。著者のカイ・カーウースさんの本業、もの書きじゃなくて王様(いちおう)なんですよ。解説から。

『カーブースの書』の著者と時代的背景
著者カイ・カーウースはカスピ海の南岸地域タバリスターンおよびグルガーンを支配した地方王朝ズィヤール朝(九二七ー一〇四〇頃)の第七代の王(在位一〇四九ー?)であった。(……)この王朝の君主で最も名高いのは著者の祖父で、第四代の王カーブース(在位九七八ー一〇二二)であった。彼は政治的には振るわず、ブワイ朝と戦って敗れ、長年月にわたり領土を逐われ、後に旧領土を奪取した。しかし彼は文化史上にその令名を謳われている。彼自身アラビア語の詩人として名高く、また学者の保護者としてもよく知られている。彼の宮廷は十世紀後半の東方イスラム世界における文化の四代中心地の一つであった。(……)しかしその後この王朝の勢力は急速に衰え、著者カイ・カーウースの時代にはこの小王朝をとりまく政治情勢はきわめてきびしかった。(……)著者が『カーブースの書』を残さなかったとしたら、彼とその子の名は歴史上から完全に忘れ去れていたであろう。

「最も名高いのは彼の祖父」と言ったそばから「政治的には振るわず」、というのがあれ?という感じがしなくもないですが、「文化の四代中心地のひとつ」というのがポイント高いということなんですね。アル・ビールーニーさんが著書をカーブースの宮廷に捧げていたりだとか、「イブン・スィーナーも彼の保護を受けようと」やってきたりもしていたそうです。でもそれ以降どんどん形勢が悪くなっていって、セルジューク朝がずんずん勢力を拡大して、ああもうだめだな、ズィヤール朝終わっちゃうな、みたいなそういう中で、カイ・カーウース王が息子にあてて書いた一種の処世術の書がこの『カーブースの書』です。

王様が息子にあてて書くならいわゆる帝王学みたいな、君主いかにあるべきか的なものかと思えばそうじゃなくて、だって全部で四十四章あるんですが、後ろの十数章は各種職業の紹介で、職をもって仕事をしてごはんを食べていくということはどういうことか、というところから始まる就職ガイドですよ。「息子よ、もしも学者になるなら、」とか「もしも説教師になるなら、」「医者になるなら、」「楽師になるなら、」という具合に。まあ職業紹介の態で、世の中にはいろいろな学問があるんだよ、というのを伝えたかったようではありますけれども(「そなたがあらゆる学問に恵まれるように、私はそれについてもまたもっと語りたかった」)、例えば裁判官、法官になるなら

法廷にあっては厳しく渋面をつくり、笑わぬほどよい、そうすれば威厳があろう

とか、詩人になるなら

注釈を必要とするようなことを言うな。詩は一般の人びとのために作られるものであって、個人のためではないからである

だとか、

目新しい語句を聞き、気に入って取り入れ使いたいと思っても、改変したり、その語句をそのまま使うな

ここまではわりとふむ、って思うじゃないですか。でもその後に続いて

もしその語句が頌詩にあったら、諷刺詩で用い、諷刺詩にあったら、頌詩で仕え。抒情詩で聞いたら挽歌に用い、挽歌で聞いたら抒情詩に使えば、だれもそれをどこから取ったか分からぬであろう

分からぬであろう。笑。どこかの宮廷に伺候して保護者を求めるなら

いつも明るい笑顔をせよ

だそうです。

ちなみに一章から三十章までは宗教の話、信仰の話にはじまって食事の作法とか睡眠についてとか、言葉づかいとか、人づきあいとか、お客様のおもてなしとか配偶者の探し方とか、王様っていうかお父さんっていうかお母さんかよ、っていうくらいまあもう細々としたことがつづられている。おもてなしは毎日するものじゃなくって一ヵ月に何回もてなすかを考えて、五度ならそれを一度にして、「そして五度に使う費用を一度に仕え」。だそうです。何そのていねいな暮らし。

「家屋、地所の購入について」「馬の購入について」などと並んでさらっと「奴隷購入について」なんていうのもあります。

欲情に駆られた時に女奴隷を前に連れてくるな。そんな時には醜い者でも美しく見えよう。まず欲情を静め、それから購入にとりかかれ。

ていねいな暮らし過ぎるよ。

ちなみに家を買うなら「裕福な人たちがいる地区にある家を買い、町はずれの家を買うな」「自分以上の金持がいない地区に買うように努力し、立派な隣人を選べ」だそうです。あと地区の集まりにはちゃんと参加しろ、近所づきあい大事にしろ、だそうです。王様……

もうこの調子で引用しようと思えばいくらでも引用し続けられます。あまりおもしろがるのも悪いかなあとも思うのですけど、ああいよいよ王朝がだめになりそう、こいつ(息子)の代にはもうだめになってるかもしれない(実際だめになった)、みたいな、それってそれなりに切羽詰まった状態だと思うのですが、下々の者(わたしだ)が想像しがちな、やすうい、うすあまあい悲壮感みたいのが全然ないんですよ。指示というか、アドバイスがいちいち具体的で無駄がない。無駄がないと思えば、お父さんもつらいんだよみたいな本音っぽいのをちょろっとだけはさんできたり、まあ気を逸らさせないです。どれだけ愛されてるんだこの王子、と思ったりもしますが、その次のページで「駆け引きは常に怠るな」とか出て来るんで油断ならないです。

飲酒の作法なんていうのもあって、飲まないにこしたことはない、本当は飲まない方がいい、そうは言ってもおまえも若いしどうせ飲むだろう、「私もいろいろ言われてきたが聴かず、五十の坂を越してやっと神の御慈悲で後悔を授かった」「飲むなら改悛に思いをはせ、至高なる神に改悛のお導きを乞い、」「ともかく、酒を飲むなら、飲み方を知らねばならぬ」「もう二杯飲めるなと思うときにいつも杯を置きなさい」。

もうこの調子で、引用しようと思えばいくらでも続けられます(二回目)。これの後に『四つの講話』が収録されているのですが、実は訳者の黒柳恒男氏大推薦の第二の講話、詩人と作品を紹介した文学案内的な部分以外はあんまりちゃんと読んでいません。お父さんの話がおもしろすぎるんだもん……

しかしこうしてひさかたぶりに発掘したことだし、これを機会にちゃんと読み直してみようかな。

と、いうわけで机の左側に積んでる9冊の上にもう1冊足されました。

“Mizan al-haqq”、あともうちょっと

一. 預言者ハディルの「生命」について
九. ファラオの信仰
十七. 正しきを命じ、悪を禁じること(勧善懲悪)について
十八. アブラハムの宗教
十九. 賄賂について
二十. アブッスゥード・エフェンディ対ビルギリ・メフメド・エフェンディの論争
二十一. スィヴァースィー対カーディーザーデの論争

あとはいちばん最後の、著者キャーティプ・チェレビーの自分語り+若干のアドバイスの部分を残すのみとなりました。

来年の秋に

cnnPrince memoir coming in fall 2017
(cnn)

出すんですって。回想録を。

Questions and thoughts about Prince’s memoir due in 2017
(Star tribune)
Prince Will Tell His Own Unbelievable Prince Stories in Newly Announced Memoir
(Slate)
Prince to release memoir in 2017: publishers made ‘an offer I can’t refuse​’
(The Guardian)

Prince said at an event in New York City on Friday night that the book’s working title is The Beautiful Ones and that the publishers made him “an offer I can’t refuse”.

He added that the book will start with his first memory.

“This is my first (book). My brother Dan is helping me with it. He’s a good critic and that’s what I need. He’s not a ‘yes’ man at all and he’s really helping me get through this,” Prince told the audience, which included Harry Belafonte, Trevor Noah, journalists and music industry players.

“We’re starting from the beginning from my first memory and hopefully we can go all the way up to the Super Bowl,” he said.

At one point Prince asked the crowd: “You all still read books right?”

The audience roared loudly.

金曜日にNYで開催されたイベントで発表された。ほにゃらほにゃら。仮題『The Beautiful Ones』。出版社(Spiegel & Grau × Random House)から提示されたオファーが「断りがたい」ものだったので。ほにゃらほにゃら。「スーパーボウルあたりまでを書けたらいいなと思ってる」。ほにゃらほにゃら。途中、「本って、みんなまだ読んでるよね?」とプリンスに声をかけられた観客が大歓声で答える場面もあった。ほにゃらほにゃら。

本、まだ読んでますよ。

それに、聞いたりもしてますよ。