サトシ

・イスラム平和財団、とか同財団理事長のアブドゥル・ラザク・アブドゥッラーさん、とかについては何にも知らないんですけど、「モデレーター 池内 恵 准教授」に惹かれてのこのこ行ってきました。

笹川平和財団主催 中東イスラム政治変動講演会シリーズ 第10回「宗教と政治の間で揺れ動くイスラム世界」

・敢えて柱の陰の席を選んで「サトシ!」ってすることにしました。以前ある姉妹に「わたし、サトシを見てると電信柱の陰から飛雄馬を見ている明子ねえちゃんモードになっちゃうんだよね」と言ったらすごい爆笑されました。そんな、西新宿のビル街のど真ん中でしゃがみ込んでまで笑わなくても、っていうくらい大笑いされてしまった。いや、わたしは本当に学者さんの界隈ですとかはあんまり良く分からないんですけど、それでもハタで見てるとなんかこう……何て言ったら良いんですかねえ。電信柱の陰から「サトシ!」ってしたくなってしまうこの空気感。

・「サトシ!」ってなるこの感じには、もうひとつ理由がある。氏の『書物の運命』ですか、あれの序文に氏のご実家にはテレビが無かった、ていう記述があるんですけれど、「わー、そうだったのか!」ってなったんですよ。わたしのおうちにも、テレビが無かったんです。まあそうは言っても氏のご実家とは違い、わたしのおうちの場合はアカデミックなあれでも何でもなく、単にエコノミックに状況が許さなかったというだけではありますが。

・ラザク氏の講演自体は、うん。まあ。おもしろかったのではないでしょうか。制限1時間に、色々詰め込み過ぎな気もしなくもなかったですが。ジハードであるとか原理主義であるとかイスラム主義であるとかいった用語の問題から、アラブの春だ、移民社会だ、サラフィーだ、ワッハービーだ、ところでシリアどうするの?西側諸国の皆さんはどうするのが良いと思うの?そうそう、イランとサウジの関係、あれは「冷戦」だよね。ところで北朝鮮とシリアとイランって、云々。

・じゃあまあ、今まさにあなたが語ったような、そういった世界状況を踏まえた上で、では「イスラム平和基金」がどういう性格の団体で、具体的にどういう活動をしているのか。ちょっと興味があったのですけれども、そういうお話にはなりませんでした。

・ヒズブ・タフリールのお話も少し出てきました。「皆さんには荒唐無稽に聞こえるだろうけれども、全てのイスラム国家をまとめてカリフ制を復興する、と、本気で訴えているグループがある。OICですらあんなにバラバラなのに、そんなこと無理に決まってる」。ラザク氏はヒズブ・タフリールについて「主張はラディカルだけど暴力的ではない」団体、と評していた(概ね同意するけれど、「暴力的ではない」については、わたしはきもち保留したいものがある。英国ではそうとう下火にはなったものの、米国ではキャンパス内やモスク等での勧誘行為が、そろそろ問題視され始めている)。

・とりあえず乱暴にまとめるとラザク氏は、ムスリムの多様性、というのを訴えたかったようだった。ジハーディスト、ファンダメンタリスト、イスラミストというような語には抵抗感を示していらっしゃったけれど、ラディカル、コンサバティブ、それにショーヴィニストという語はばんばん使用しておられた(ここらへん、ちょっと難しいなと思った。わたしは、例えばあるグループがイスラム団体を自称している時にそれを「ラディカル」とか「エクストリーミスト」とかというふうに置き換えてしまっても問題無いものなのかなあ、などと考えてしまったりするんですよね)。

・講演後に、池内氏が10分程度おしゃべりなすったんですけども。「宗教としてのイスラムの理想するところと、現実のムスリムの行為は分けて考えるべき、というのはそれはそれで重要な指摘なんだけど、とは言うものの、そもそもそれって果たして分離可能なのかどうか。だって宗教としてのイスラムにしたって、解釈して実践するのは同じ人間なわけだから」っていうのは、ちょっと柱の陰で笑いました。全然ぶれないなサトシ。

・前のめりに「文明の対話」スバラシイ!世界はひとつ!皆同じ人間!みたいな人物がこういう講演会のモデレータだと、最初からプロセスも結論も決め打ちになってしまって、何これつまんない、となるところなんですけれども。何というか池内氏の、そういう「敬虔な嘘」を敬して遠ざける際の手際の良さは、もうほとんど芸術である。

・シリアについて、ラザク氏はちょっと悲観的なお見立てだったのだけれども。それについても池内氏は、「民衆蜂起に対するアサド政権の対応を見れば、その初期の段階で現体制は既に正当性を失っていると判断している」「『アラブの春』を経た後のアラブについては、もう少し期待しても良いんではないか」、と、僕自身はそう考えてます、というようなことを付け加えていた。あ、ご見解に同意だわ、というのと同時に、こういうふうに「僕自身はそう考えてます」という話し方をする学者がもっと増えてくれたらいいのになあ、と思いました。そうなってくれれば、わたしだってこうもサトシサトシ言わずに済むのですが。

・ところで開会挨拶で、「会場には内閣総理大臣安倍晋太郎氏の奥方にもご列席頂いております」ってやっていました。うーん、笹川平和財団。

別のところに書いたのを、こちらに保存しました。